すんまへ~ん!
笑福亭鶴光は、上方落語の正統派の系譜に属しながらも、テレビ・ラジオを中心としたメディアの世界で異彩を放った存在である。
『すんまへ〜ん!』は、そんな彼の“古典芸能と大衆娯楽”の交差点で生まれた象徴的楽曲であり、1970年代の日本における「伝統とポップカルチャーの融解」の証でもある。
落語の話芸や間(ま)の取り方をそのままレコードの上に持ち込んだかのような構成は、音楽というより「喋り芸の拡張」であり、文字通り「語りとメロディの雑種」となっている。
当時はタモリや所ジョージ、B&Bなど芸人によるシングルレコードの発売が次々と企画されていたが、鶴光の『すんまへ〜ん!』はその先駆けともいえる存在だ。
真剣な楽曲としてではなく、“芸”の延長としてレコードを発表するこのスタイルは、「売れるかどうか」よりも「笑わせること」に重心を置いた試みだった。
「歌っているのにネタをやっている」「ネタなのに口ずさめる」といった独自ジャンルに強い影響を与えた。
“笑いの温度”を落とさずに、音楽というフォーマットにうまく落とし込んだ手腕は、まさにラジオ畑の芸人ならではの手触りを持っていた。
特筆すべきは、この曲が“ラジオパーソナリティとしての鶴光”と完全に地続きであった点だ。深夜放送『オールナイトニッポン』において、彼はエロ・下ネタ・人情・毒舌をすべてブレンドして“昭和の深夜を温める声”となっていた。
『すんまへ〜ん!』というタイトル自体が、彼の放送での決め台詞・キャッチフレーズ的に機能しており、リスナーとの距離を一気に縮める“共通言語”となっていた。
つまりこの楽曲は、メディアにおける「声の芸人」ならではのアイデンティティを音盤化した作品であり、昭和ラジオ文化のエッセンスを凝縮した1曲とも言える。
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